“熟年合気道”ですから、道場には、ボク同様、髪が白かったり、毛がなかったり・・熟年になって合気道を始めた愛好者が集っています。
ご想像通り、若者と違い、運動神経は鈍いし、物覚えもう~んと悪い。毎日、電話をしようと受話器を取った瞬間、(誰にかけるんだっけ?)状態・・
悲しいかな、合気道の稽古もその延長線上ですから、若者が1年で身に付ける技に幾年もかかる始末。
当然お先も短い、どれだけやっても道半ばで折れるだろうに、なのになんでまた・・?と首を傾げられることが多い。
そんな時は面倒なので、(稽古の後一杯やるビールが旨いから・・)とこたえることにしています。
だって、当人も、喧嘩が強くなりたいから、とか、趣味の仲間が欲しいとか、そんなことで始めたわけじゃないのですから。
健康のため・・でもありません。
何を求めたのか当人もよくわからないまま、(でも何かを感じたのですね)かれこれ10年がたとうとしています。
そして今・・ボクの脳の中に、“借家人のようにもう一人のボク”が住みついています。別にたとえ話じゃありません、本当にいるんです。
(ボク)とは、合気道的な身体運用の「型」のようなもの、体使いの基本を姿形にした(小人くん)、ゆるキャラみたいに思ってもらってかまいません。
(小人くん)は、人間の言葉を覚え、語りかけてきます。
いいえ、合気道の具体的な技や、精緻で深遠な術理の世界はわきに置いて、ごく一部、初心者レベルで十分、基本のキ部分だけでも紹介しましょう。勝手に翻訳させてもらいます。
(小人くん)は、稽古場以外でもボクの体軸や正中線の感覚にとっても敏感。
草むしりしてる時も、家でデスクワークしていても、街を歩いていても、居酒屋で一杯やっていても・・24時間どんな時も(ほら、また顔が突っ込んでるよ、自分の軸と天地を通して・・)と背中を押してくれます。
お陰で、姿勢がよくなり、内臓の働きがよくなり、気持ちいい身体時間が急増!
小人くんは何事につけ、力まかせに働きかけることを厳しく戒めてくれます。
とりわけ、身体作業では・・日曜大工でトンカチをふるうにせよ、朝夕歯磨きするにしても、風呂場で体を洗うときも、ジョギングする際も、荷物を運ぶにしても・・
(力まかせにガシガシやると逆効果だぜ、ゆっくりでいいから、正確に、丁寧に・・ね)と耳元で囁きます。
要は、何も考えずガシガシ体を使うんじゃなく、丁寧に正確に、そして、重労働であるほど体幹を柔らかく使うように・・とおっしゃる。
そのせいか、体の燃費がハイブリッドくらい素晴らしくよくなりました。熟年にとって(省エネ)は嬉しい!
実は、身体的な動作だけではありません。ここからが肝心なところ。
普段の人間関係の中で、たとえば、家族や友人、同僚と意見や価値観の相違などで齟齬が生じた際、あるいは、正解が見つからないなかで、当面の手打ちが必要だったりするとき・・
(あ、ここはゴリゴリと正論を主張しても逆効果になるよ・・)(我を通そうとするほど我は通らないぜ)(ここは、前のめりに突っこんではダメ、もっと自分の体軸と相手の正中線を意識して、接点はほんわりほんわり・・)などと、たしなめてくれます。
妻や同僚が失態をしても、(だから、あれほど言っただろ、バッかだなあ)じゃなく、(そうか、君はもともと実力あるんだから、落ち着いてやれば大丈夫だよ)的なことです。
「ありがとう」「なるほど!」「ごめん」「お疲れさん」・・など、合いの手も必須ワード。
おわかりのように、稽古場以外では、正面打ちも横面打ちもありません。
一般世間での「接点」とはたいがい、相手への語りかけ、言葉による接触。
相手の「軸」とは・・相手の気持ち。
(抜き)とか(崩し)・・は、相手が気持ちよく納得してくれること。いらぬ反発や抵抗を起こさせない点は、稽古と同じです。
一言でいえば、理屈よりも、「共感」してあげることなんだね。
さらにいえば、(合気をかける)・・には、「笑顔」があればもっと掛かりがいいようです。大笑いじゃなく、ほんわりした、微笑み。
そんなわけで、かつては、人一倍に積極的、いや、前のめりで事にのぞみ、仕事もアニマル系だったボクも、今は、“ほんわか爺さん”になることが理想です。
(最大の強敵は・・やはり、妻ですね。これがなかなか掛からないんだ・・!)
よく、合気道習うと、どんなトクがあるんだよ?と聞かれますが、みんな、就職に役立つとか、恋愛に役立つとか、金が儲かるとか、そんなことばかりでしょ。
ああ、生きてるうちにこれと出会えて良かった!世界の見え方がまるで違うゾ!・・と思える、ホントの(おトク)があるんです。
そのへんは、人生経験だけは豊かな熟年合気道ならではの得意技といえるかもしれません。
合気道で育った(小人くん)の賢さ。身体的な性質上、言葉で伝えられるのはごく一部、なんとか翻訳能力を磨いて合気道の汎用性をもっとお伝えしたいと思っています。
良いお年を・・
#きいてきいて