(一社)氣と丹田の合氣道会 楽心館

楽心館長 退任のご挨拶

令和7年(2025年)4月29日 石川智広

皆さま、本日はご多忙の中、私の退任式にご臨席いただき、誠にありがとうございます。

漢詩に「木落ち水盡き干崖枯れて、迥然(けいぜん)天地の眞吾が現れる」とあります。

すべてが枯れて静まり返り、何もなくなったとき——
天地の本当の姿が、そして自分の本当の姿が、はっきりと現れる。

このような節目を、長年ともに稽古を重ねてきた皆さまと迎えられること、心より感謝申し上げます。

私が武道の道を志し、職業武道家として歩み始めたのは25歳のときでした。その後に修行期間を経て、平成7年、私が35歳のときに「楽心館」として独自の道を歩み始めたのも、人生の大きな転機となりました。

ちょうどその年の3月に結婚し、同年の12月末には長男・蓮太朗が誕生するという、人生の節目がいくつも重なった年でもあります。

やむに已まれぬ決断ではありましたが、振り返れば、それは必然だったのかもしれません。路線が迷走しているように見えた時期もありましたが、良縁と学びに支えられながら、今日の稽古内容へとたどり着くことができました。刻苦勉励の歳月、後悔はありません。

とはいえ、まだ技は完成したとは言えません。登山に例えるなら、ようやく七合目に至ったところでしょうか。私自身、今なお修行の途中であることを自覚し、日々の精進を重ねております。

令和2年4月には、武道における第二の大きな転機が訪れました。櫛田昌之指導員が、48歳という若さで非業の死を遂げたのです。

体力もあり、健康だった彼が、突然「末期癌」と診断され、その後「心臓肉腫」という極めて稀な病であることが判明しました。逝去までの半年間はあまりにも短く、私にとっても大きな衝撃でした。この出来事をきっかけに、私は自身の年齢と向き合い、次世代への継承を本格的に進めるべきだと強く決意したのです。

禅語に「人間本来無一物」という言葉があります。これは、人間はもともと何も持たない存在であり、清らかさと穢れ、悟りと煩悩が共にあるという真理を示すと同時に、自らが得たものを他者に与えてこそ、初めて「無一物」に近づくという教えでもあります。

私はこれまで、学び、積み重ねてきましたが、それを他者に惜しみなく「与える」ことに関しては、まだまだ足りなかったと反省しています。だからこそ、ここに明確な行動として、次の継承をお知らせいたします。

令和7年5月5日をもちまして、私は楽心館の代表を正式に退任いたします。とはいえ、これは明日からすべてを手放すという意味ではありません。今後5年ほどかけて段階的に役割を引き継ぎ、徐々に「仕舞いの道」へと歩を進めてまいります。

代表の座は、平 康幸に委ねます。楽心館の技術と精神をしっかりと受け継ぎ、次世代を担ってくれる人物です。また、合氣道の指導は平と石井の両名が中心となって担っていきます。大東流については古川と中嶋がそれぞれ責任を持って継承し、伝統を守り育ててくれることでしょう。

「一般社団法人 楽心館」の経営および事業運営については、嫡男の石川蓮太朗が担ってまいります。次の時代の感性で、新たな挑戦と表現をもって楽心館を支えてくれると信じています。

稽古内容についても、次世代の指導者が理解しやすく、実践しやすいような形に体系化してまいります。形をなぞるだけでなく、「なぜこの動きなのか」「どこで合氣が生まれるのか」という問いに向き合いながら、“身体で腑に落ちる稽古”ができるよう、整理と構築を進め、「剣柔一体の合氣」という教本を作成します。

最後に、これまで稽古を共にしてきた門弟の皆さんへ、そして、そんな皆さんを支えてくださったご家族の皆さまへ、心からの感謝を申し上げます。思い通りにいかないことも多い稽古の中で、諦めずに身体と向き合い、心を磨き続けてくれた皆さんの姿は、私にとって何よりの励みでした。

ご家族の皆さまには、日々の道場通いを支えていただき、門弟の成長を陰ながら見守ってくださったことに、深く御礼申し上げます。これからは、館長という肩書きから離れ、一会員として、皆さんと共に稽古を続けてまいります。ときに共に悩み、共に笑いながら、皆さんの背中をそっと押せる存在であり続けたいと願っております。

これからの楽心館が、より深く、より優しく、そしてより力強く在り続けることを心から願っております。本日は誠に、ありがとうございました。

楽心館長 就任のご挨拶

令和7年4月29日 氣と丹田の合氣道 理事 平 康幸

本日はお忙しい中、式典に足をお運びくださり、誠にありがとうございます。

私は現在、多摩地域の指導を担当しております。来る5月5日は楽心館創立記念日にあたります。この日に楽心館長へ就任し「氣と丹田の合氣道」を担当させていただきます。

38歳で入会以来、何とか稽古を継続することができました。ひとえに厳しさの中にも温かさがあり、楽しく続けられたことに心より感謝しています。石川館長及び皆様のお陰様です。

さて、この度石川館長が次に続く者達を育てるために、館長を退任する決断をされました。館長からは「教え子が成長していく喜びを味わってください」と、優しい言葉をいただきました。

しかし突然二代目に任命されたときは「まさか自分が――。」そう思ったのが正直な気持ちでした。今まで経験したことのない重責に、身が引き締まる思いがいたしました。

しかし皆様がご存じの通り、石川館長が引くと言ったら必ず引くのです。武士に二言は無いのです。

不安と迷いを抱える中、ふと耳にした言葉がありました。人生を長く生きてきた人たちに、振り返って後悔することはありますか?そう尋ねると当然答えは「勿論ありますよ。」と返ってきます。しかし、そのほとんどの方が「やって後悔するより、やらずに避けてきたことのほうが遥かに悔いを残している」と答えました。

もう先が見えてきた人生。これを後悔するどうかは分かりませんし、師匠と同じこともできません。ただ誠意をもって役目にあたる。これだけです。「お前が10年間やれ」と言われ引き受けた以上、精進し努力してまいります。唐突に私事ですが、僅かでも徳を積み、それを携え胸を張って天国のお母ちゃんに会いに行こうと思いました。

石川館長、未熟者の私たちですが、これからも誠実に学び、心を磨いてまいります。どうか今後とも、変わらぬご指導とあたたかいまなざしで見守っていただければ幸いです。

楽心館創立以来、長年にわたり会を牽引してくださり、心より感謝申し上げます。

皆様には、今後とも変わらぬご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

本日は誠にありがとうございました。

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