振り向けば 恩を受けし 人ばかり

振り向けば 恩を受けし 人ばかり
今年最後の対外行事を終えました。東京都形剣道大会における直心影流剣術「法定」公開演武への出場依頼を受け、出演して参りました。令和7年12月6日(土)のことです。
一年前から予定されていたため準備期間は十分にありましたが、二か月を切るころようやく“尻に火が付く”という言葉の通り、生活の中心に12月6日が据えられるようになりました。さらに三日を切ると腹が決まり、ひたすら稽古に専心しました。
演武前日のことです。この日も長生村武道館の剣道場を貸し切り、二時間の一人稽古を行いました。鏡を前に、足型・刃筋・気合・呼吸を一点ずつ確かめていく。これを「最後の一回」にしようとしたその時、ふと鏡の上に鎮座する神棚が目に入りました。「ああ、ここに神棚があったのか」と思った瞬間、亡き両親の顔が二つ、並んで浮かび上がってきました。
私は信心深い人間でも、特別に孝心の高い人間でもありません。しかし稽古に深く集中していたからでしょうか、この道に進むことを激しく反対していた両親が、神棚の前に静かに立つ姿として現れたのです。
鏡の前で頭を下げる――そこで“我”というものがそぎ落ちていく。「カガミ」から「ガ(我)」が抜ければ「カミ(神)」になる。これは小川忠太郎範士の講話集にあった言葉です。未熟な私が模範演武の大役をいただき、懸命に稽古を重ねる中で、わずかばかりでも“我”が落ちたのでしょう。
「今の自分を、明日の自分を、両親は見ている」
そんな感覚が胸に満ちました。両親がどう思うのか――その答えは、今はまだ出すことができません。
今年も多くの精進をさせていただき、ほんの少しではありますが学びを深め、その一端を周囲の人たちと分かち合うことができました。育ててくれた両親の恩。生活を支えてくれる妻の恩。道場を支えてくれる指導員・お稽古人のみなさんの恩。ご指導くださる先生方の恩。そして、見返りなく与え続けてくれる天地自然の恩。
年の瀬にふと振り返れば――
恩を受けし 人ばかり。
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