■ 自民・公明の連立崩壊を見越す米国
米国にとって日本の政局は、単なる同盟国の国内事情ではない。TPP交渉、地位協定、エネルギー輸出──すべては「どの政権が交渉相手か」に左右される。
現在、アメリカ政府内部では、自公政権の求心力が限界に近づきつつあるとの見方が強まっている。仮に参院選で大敗すれば、与党は政権の正統性を大きく揺さぶられ、交渉カードを大幅に失う。
アメリカが石破茂氏や他の“ポスト岸田”候補との交渉を急がない理由は明快だ。より不安定で、交渉力のない体制になってから、より有利な条件を引き出す狙いがあるからである。
■ トランプ再登場と「資源外交」の思惑
アメリカでは2024年にトランプ前大統領が政界復帰を果たし、再び強硬な「取引外交(deal diplomacy)」が復活した。
彼にとって日本は、貿易黒字国であり、兵器の顧客であり、そして「納税者(taxpayer)」である。
アラスカで進行中のLNG(液化天然ガス)開発計画には、日本の官民ファンドや輸入事業者の投資が期待されている。だが、これは経済合理性ではなく、政治的配慮によって押しつけられる可能性がある“外交案件”に他ならない。
日本の政権が不安定になれば、「国際貢献」や「エネルギー安全保障」の名の下に、巨額の税金をつぎ込ませることも容易になる。それをトランプ政権は“交渉の勝利”と演出することだろう。
■ 野田佳彦氏と「財務省による暫定安定」の構図
一部で囁かれる「自民・公明・維新・立憲による超党派連立政権」は、実質的な“緊縮コンセンサス”の復活を意味する。その中心に野田佳彦元首相が浮上する可能性も否定できない。
野田氏は財務省の緊縮路線と極めて親和性が高く、「消費税増税と財政再建」を主軸に据える傾向が強い。官僚にとっては“管理しやすい首相”であるが、国民にとっては「増税と依存体制」の強化にほかならない。
こうした暫定政権では、対米交渉での独自外交は望めず、むしろ「従属的安定」が再生産される恐れがある。
■ 問われるのは「日本の主権」そのもの
アメリカが対日交渉のタイミングを見計らうのは、外交として当然のことだ。問題は、日本が「政局の不安定さ」を理由に、国家の意思決定を外部に委ねてしまう体質にある。
- 本当に日本人の税金はアラスカ天然ガスに使うべきか?
- 関税やFTAは誰のために交渉されているのか?
- そして、日本の首相は誰の意向で決まるのか?
これらの問いに対し、国民自身が目をそらせば、アメリカのみならず他国からも「扱いやすい国」と見なされることになる。
今後の日本政治には、形式的な安定よりも、「交渉に耐えうる国家意思」が求められる。これは、いま目の前で揺れている政局の先にある、根本的な主権の問題なのだ。