合気道を自由度のメガネで見てみると・・・

最終更新日 2014年11月20日

文京道場 五十嵐 政志


自由度とは、機構学、統計学等で使われる用語です。機構学で使われている自由度を簡単に説明しますと「平面に直線的に彫られた溝に沿って物体が滑って移動する、又は、平面上の一点で回転している時」自由度は1と表現し、「平面上を自由に滑って移動する、又は、前出の溝に沿って回転を伴った移動をしている時」自由度は2と表現します。つまり、「あるひとつの方向にだけ動くこと」を自由度1と言い、ふたつの方向に動けたら自由度は2です。この自由度をヒトの体に当て嵌めて考えてみます。例えば、ヒトの手首は前後、左右の2方向の動きと捩じりの運動を加えて自由度は3です。ヒトの腕全体を考えた時、肩は縦、横、回転が出来るので自由度は3、肘は曲げだけなので自由度は1、そして前出の手首は自由度が3なので、全部で7の自由度を持っています。空間に置かれた物体を掴むのに必要な自由度は6なので、ヒトは必要以上の自由度を持っているのです。因みに指は一本あたり4の自由度を持つので、指全部で20の自由度を有しています。  


合気道の小手返しを例にとり技の掛りと自由度との関係を考えてみましょう。相手の手を取った半身の体勢から説明をスタートします。



①相手の手の甲をこちら側に向け、親指を立てた両手で相手の手全体を両側から優しく包み込む


←相手の指が有する20の自由度は略そのままですが、立てた親指先の腹を相手の指根元関節に添えることで相手の手の平を立て手首の自由度を拘束します。手首を立てるこで手首が有する自由度3を拘束できるのは、その自由度が可動角としての限界を有するからです。手首の前後自由度は1ですが可動角は約180度(※注1)。左右のそれは約90度。この前後左右の自由度は親指を立てた両手で相手の手を挟み込むことで拘束します。捩じりの自由度1は、肘から手首まで略平行に並んだ2本の骨(橈骨(とうこつ)と尺骨)の捩じれによって生じるものであり、手首そのものが捩じれる訳ではないので、その可動角は僅かであり手首を可動角の限界までシッカリ立てることで2本の骨の捩じりをも拘束できるのです。



②手首の拘束の次は肘です。この部の自由度は1なので、この自由度が作る面に若干の角度を付け“詰まり”での拘束を試みます。


←肘の可動角は約135度であり、この可動面内での拘束は難しいのでこの面に対して作用角(モーメント)を与えることで、関節を構成する骨と骨との隙間(※注2)が詰まり拘束に至るのです。


③肘までの拘束が完了したら投げに移ります。相手の指根元関節に添えた親指を通して相手の肩との繋がりを感じ、その肩が抜ける方向へ“等速度”での“袈裟がけ”を意識し導きます。


←肩の自由度は3で、回転の自由度は肩筋肉の動きにより動く程度であるため、肩を中心に僅かに回すことで可動限界に至りこの自由度を拘束できるのです。又、このことにより相手の崩し効果も得られます。更に縦方向の可動角は約210度、横方向のそれは約360度で制限なしのため、このふたつの自由度を拘束するのは難しく、代わりに肩が抜ける方向を意識します。前出の肩回しによる後方への崩しと肩が抜ける横方向への導きは、ヒトの腰から上の前後左右の倒れに対する耐性の内、より脆弱な後方と横方向を狙ったものなのです。腰部にも自由度と可動角が存在するのです。この一連の動きによりスムースに相手に投げを打つことが可能になるのです。



以上の様に、ヒトの骨格や関節の自由度と可動範囲等を意識することが技の掛りに重要であると考えています。 


更に、相手の身長、体重にも意識が必要です。投げの有効性は、相手の身体重心を崩しているか否かに掛って来ます。身体重心は、ヒトが運動を行う際の全身の動きを代表する点であり、その位置は直立立位状態で骨盤内、仙骨のやや前方、いわゆる丹田と言われる場所に有り、成人男性の場合、足底から身長の約56%、女性で55%とされています。


ここで、手の平の上で棒を立てる動作を考えてみます。同じ太さの棒を立てる場合、長い棒と短い棒のどちらがバランスを取り易いか? 当然ながら、長い棒の方が重く、且つその長手中央に有る重心が手の平から高い位置に有るため(専門的に慣性モーメントが大きいと言います)倒れる速度が遅くなり、手の平を横方向へ移動(制御)して棒の安定を保つのが易しくなります。逆に短い棒が倒れ易いのは、重心位置が低い(慣性モーメントが小さい)ため倒れる速度が速く制御がし難くなるためです。この理由を更にひも解くと、ニュートンの運動の第二法則に行き着きます。即ち、第二法則;F=m・α(F;外力、m;質量、α;加速度)において、外力(F)の強さに正比例する加速度(α)は、質量(m)には反比例するため、長く重量の大きい棒の方が加速度が小さいため平衝状態を乱す外力に抗い、安定性を保ち易いからです。


ヒトの身体を棒の様な単純なモデルに置き換える事は難しいと思いますが、背が高く体重の大きい相手は、自分より丹田の位置が高く且つ重い(慣性モーメントが大きい)のですから、重心の位置は高くても、そのこと自体倒れ難い特性を持っているのです。ですから、技を掛けるにあたって、更に“ゆっくり”と加速度の変化を感じさせない“疑似等速度”の動きを意識することが必要となるのです。


冒頭でヒトが持つ肩から肘までの自由度は7で、空間に置かれた物体を掴むのに必要な自由度は6と書きました。この余分な自由度(このことを冗長性が有ると言います)を含め、相手の自由度を可能な限り拘束し投げに至るために必要な要素は、手の平を掴んだ初期から、完全な投げに至るまでの安定した組み手の持続(即ち、自由度拘束の維持)に有ると思われます。この安定した組み手こそが幾何学上安定な「三角形」であり、立体的には「三角錐」であると思われます。しかし、相手の自由度を可能な限り拘束していると言う事は、180度反対の見方をすると、自分自身も相応な拘束条件下に有ることを意味し、技の掛りに主体性を持ち難くなります。経験的に、お互い根が張った状態では技は掛かりません。そこで重要になるのは相手の中心を取りに行く“踏み込み”と自由度を拘束に行く過程で得る“崩し”なのです。この“崩し”こそがアドバンテージであり、互いの自由度が拘束の条件下に有っても技を完遂することの源となるのです。 


以上、小手投げを例としてヒトの骨格や関節の自由度と可動範囲等を意識すること以外、目で見える相手の体形から組み手の意味を考えてきました。例えば、四方投げでは、肘関節の自由度1を完全拘束する等、各技毎に拘束すべき関節と手法は異なって来るものの、その考え方は普遍的であると思っています。皆様もご自身の視点で合気道を眺めてみては如何でしょうか。



※注1;可動角の数値データは「自由度という考え方(人の腕の自由度)」を参考にしました。

※注2;関節である連結部分は、骨と骨との外側に「関節包」と呼ばれる丈夫な袋で包まれて居り、その直ぐ内側には軟らかい「滑膜」がある。骨と骨の隙間である「関節腔」は「関節液」で満たされている。

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